会社からお金を借りる『社員貸付制度』は、消費者金融より断然低金利
「会社からお金を借りる」という方法があります。「社員貸付制度」という正式な制度で、最近は大企業だけでなく、景気のいい中小企業でも導入されています。ポイントをまとめると、
- 返済は給料から天引き(のことが多い)
- 限度額は10万円から。最大300万円という企業も
- 正しい理由がなくてはダメ。遊興費などは借り入れ不可
…という風です。以下、詳細に説明します。
消費者金融より圧倒的に低金利で借りられる
社員貸付制度は、消費者金融や銀行カードローンよりも断然低金利で借りられます。それは当然で「会社の人材」に対して融資するわけですから、高い金利で負担をかけても仕方ないのです。
また、社員貸付制度が低金利なのは、もう一つ理由があります。それは、「給料から天引きする場合がある」ということです。
給料天引き式なら、無利息に近い
給料天引きというのは、言うまでもなく「来月の給料から差し引く」というもの。「給料の前借り」ということですね。
こう説明すると「何だ。社員貸付制度って、昔からあったんじゃん」と思うでしょう。その通りで、昔から「社長。済まねえけど、今月の給料、前借りできんかなあ」などという労働者のおじさんはいました。
寅さんの映画などでは、よく社長が「バカタレ!」と怒りながら、結局お金を出してあげたりしますが、要はあれが「社員貸付制度」なんですね。そう考えると、割と「人間的なシステム」と感じるでしょう。
「福利厚生」というよりも「昔からあった、日本の会社の義理人情」みたいな感じですね。
企業にとって、社員貸付制度のメリットは何か?
当然ですが、私企業は「利潤の追求」のために動いています。つまり「メリットのないこと」はしません(してはいけません)。
では、社員貸付制度は、企業にとってどんなメリットがあるのか。それは下の通りです。
- 社員の副業を防げる
- 社員が会社に愛着を持ってくれる
- 入社時などに、福利厚生が充実していることのアピールになる
…というメリットです。「社員の副業」については、これをやられると、仕事への集中力が落ちたり、睡眠時間を削ることで体調を崩したりと、問題が起きます。
特に業種によっては、女性社員が風俗店などで働いていると、バレた時に一大事になる…ということもあります。そのように企業にとって「社員の副業」はリスクがあるので、それを防げることはメリットなんですね。
その他「社員が会社を好きになってくれる」というのもいいことですし、「福利厚生の充実」も、重要な要素です。もっとも、新卒の社員などに「うちは、社員貸付制度も充実しています」といっても、それで入社を決める人は、いないでしょうが…。
(とりあえず、福利厚生の項目が多いほどいい、ということです)
社員貸付制度の別名
社員貸付制度は、下のような別名でも呼ばれます。
- 社内融資制度
- 社内貸付制度
- 従業員貸付制度
そして、融資されるお金自体は、
- 社内貸付金
- 従業員貸付金
などの別名でも呼ばれます。いずれも同じ意味で、内容に違いはないので、ここまでの説明を参考にしてください。
コラム ~戦後の日本の社員貸付制度~
「社員貸付制度は人間的は制度」と書きましたが、たとえば「トヨタ中興の祖」と言われる、3代目社長・石田退三氏の、若い頃のエピソードが、それを象徴しています。
退三氏は、トヨタに入る前は「興和紡績」にいました。その頃に投機に手を出して失敗し、今でいう数千万円の借金を作ってしまいます。
そして、当時の服部社長に「社長。少しばかりお金を貸していただきたいのですが」と希望を出します。服部氏が「いくらだ」と言うと、退三氏が「数千万」と。そして服部氏が「馬鹿野郎!」と激怒します。
激怒しつつ結局払ってくれるのですが、こういう大物の社長だから、興和紡績という大企業を作ることができたし、石田退三は「松下幸之助が終生尊敬した」くらいの、大物経営者になったわけです。
(本人は、大物とかそういうのはどうでも良かったと思いますが)
「社員貸付制度」というと、なんとなく法律的な匂いがするし、「いくら借りれるのか」とか「金利はいくらか」ということが気になるでしょう。もちろん、それも大事なのですが、「こういう制度が、どういう歴史から生まれたのか」という「自然発生の過程」を追うと、いろんなドラマがあって面白いものです。